作例墨場必携

名詩篇1(七~十四字・五言絶句・七言絶句・古詩・律詩)


寒生酒思雪引詩情 白居易
(半切)
寒さに酒が欲しくなり、雪は詩興をわかせる。

旅館寒燈独不眠 客心何事転凄然
故郷今夜思千里 霜鬢明朝又一年 髙適
(半切)
旅館のわびしい明かりの下で、ひとりで眠れないでいる。
旅に出ている心には、ひしひしと寂しさが迫ってくる。
故郷のことを、今夜私は千里も離れた旅先から偲んでいる。
しらが頭の私は、明日の朝になるとまたひとつ年をとっていまうのだ。

烟消松翠淡雪堕竹枝軽 諸国鈞
(半切)
もやが晴れかかって松の緑がうっすら見え、
雪が落ちて竹の枝が軽そうである。

清渓流過碧山頭 空水澄鮮一色秋
隔断紅塵三千里 白雲黄葉共悠悠 朱子
(半切扁額)
清渓流れ過ぐ碧山の頭(ほとり)、空水澄鮮一色秋なり、
紅塵を隔断す三千里、白雲黄葉とともに悠々。
空水澄鮮は青空も水もあざやかに澄みとおっている様。
隔断紅塵は人里はなれた形容。

金龍山畔江月浮 江搖月湧金龍流
扁舟不住天如水 兩岸秋風下ニ州
夜下墨水 服部南郭
(半切)
金龍山畔(きんりゅうさんぱん)江月(かうげつ)浮び、
江(かう)搖ゆらぎ、月湧わいて金龍流る。
扁舟(へんしう)住とどまらず天水みづの如ごとし、
兩岸の秋風しうふうに二州を下くだる。
墨水は隅田川。
二州は武蔵と下総。墨田区両国の語源。

満樓春色待人来 査嗣瑮
(半切)
髙樓には春色満ち、人の訪れを待つ風情。

落花寂寂啼山鳥 楊柳青青渡水人 王維
(半切)
音もなく花が散り、 山間には啼く鳥の声ばかり、
岸に青々柳の並ぶ川には舟で渡る人影がみえる。

落落乾坤人亦無 誰歟自古是眞儒
唯名與利多為累 一過此關纔丈夫
謾言 佐藤一齋
(半切)
広い世の中には、人はたくさんいるけれども、
はたして誰を昔からまことの学者と賞賛できるだろうか。
多くの人は名誉と利欲とが心のわざわいとなって
真の道に進むことができない。
この名利を超越した人こそ、
はじめて大人物と言えるのである。
佐藤一齋 1772-1859 江戸後期の儒学者。

青門日暖塵光動 紫陌花晴風色来 楊巨源
(半切)
長安城の青門は日暖かに塵光動き、
紫陌の都は花晴れて風色来る。

早蛩啼復歇 殘燈滅又明
隔窗知夜雨 芭蕉先有聲 白楽天
(半切)
早蛩はこおろぎ。啼復歇は鳴いたり止んだり。
滅又明はまたたくさま。芭蕉の葉に音のするのを
聞いて、雨になったと気付く。

青山横北郭 白水遶東城
此地一為別 孤蓬万里征
浮雲遊子意 落日故人情
揮手自茲去 簫簫班馬鳴  李白
(半切1/2)
青山北郭に横たはり、城郭の北は緑の山が連なっている
東城には、川が水白く流れている
此の地一たび別れを為し この地でひとたび別れたならば
孤蓬万里に征く 枯草が風に飛ばされるように
君はあちらこちらへ行ってしまうのだろう。
白雲は出発する君の胸にただよい、落日は残るぼくの惜別の情。
手を振っていこうとすれば、しゅうしゅうと駒はいななく。

鶯歸樹頂聲轉 雁去天邊細影斜  陸翬
(半切)
初うぐいすが木の枝に帰って来て賑やかにさえずり、
雁は遠い彼方の空に細い影をみせて去ってゆく。

夫天地者萬物之逆旅 光陰者百代之過客 而浮世若夢 爲歡幾何
古人秉燭夜遊 良以也 況陽春召我以煙景 大塊假我以文章
 會桃李之芳園 序天倫之樂事 群季俊秀 皆爲惠連 吾人詠歌
獨慚康樂 幽賞未已 高談轉清 開瓊筵以坐華 飛羽觴而醉月
不有佳作 何伸雅懷 如詩不成 罰依金谷酒數
春夜宴桃李園序 李太白詩
(折帖)
いったい天地はあらゆるものを迎え入れる旅の宿のようなもの。
時間の流れは、永遠の旅人のようなものである。
しかし人生ははかなく、夢のように過ぎ去っていく。
楽しいことも、長くは続かない。
昔の人が燭に火を灯して夜中まで遊んだのは、
実に理由があることなのだ。
ましてこのうららかな春の日、
霞に煙る景色が私を招いている。
そして造物主は私に文章を書く才能を授けてくれた。
桃や李の実ったかぐわしい香りのする園に集まり、
兄弟そろって楽しい宴を開こう。
弟たちは晋の謝惠連のように優れた才能を持つ者ばかりだ。
私独り、歌を吟じても謝霊運に及ばないのだが。
静かに褒め称える声が止まぬうちに、
高尚な議論はいよいよ清らかに深まっていく。
玉の簾を敷いて花咲く樹木の下に座り、
羽飾りのついた杯を交わして月に酔う。
優れた作品に仕立てなければ、
この風雅な気持ちはとてもあらわせない。
もし詩が出来ないなら晋の石崇の故事にのっとり、
罰として酒三杯を飲むことにしよう。

寂寂孤鶯啼杏園 寥寥一犬吠桃源      
落花芳草無尋處 萬壑千峯獨閉門  劉長卿
(半切)
寂々として孤鶯は杏園に啼き、寥々として一犬は桃源に吠ゆ。
落花芳草尋ぬる処なく、万壑千峯独り門を閉ざす。
仙境に高樓する隠者の境地。杏園は江西の廬山にあり、
桃源は湖南常徳府にある。尋ねあぐんだ末、ようやく
尋ね当てたところは千山万岳のふところで、ひっそりと
門が閉ざされていた。

春囘雨點渓聲裏 人醉梅花竹影中 楊萬理
(半切1/2)
春はしとしとと降る雨にも谷川のせせらぎにも帰ってきた。
人々は梅花竹林の間に酒に酔う。

舳 艫 千 里、 旌 旗 蔽 空、 釃 酒 臨 江、
横 槊 賦 詩。 固 一 世 之 雄 也。 
而 今 安 在 哉。   赤壁賦 蘇東坡
(半切)
舳艫(じくろ)千里、旌旗(せいき)空を蔽(おお)う。
酒を釃(く)んで江に臨み、槊(ほこ)を横たえて
詩を賦(ふ)す。固(まこと)に一世の雄なり。
而(しか)るに今安(いず)くに在りや。

黄 花 香 淡 秋 光 老     
落 葉 聲 多 夜 氣 清  張陳
(半切)
菊の香もあわく、秋も深まり、落葉の音しげく夜気も涼しい。

林 外 雪 消 山 色 静     
窓 前 春 河 竹 聲 寒   韋振
(半切1/2扁額)
山林のあたりは雪が消えて山色は青く静かに、
春まだ浅い窓前には竹が寒そうに音をたてている。

莫 上 高 樓 看 柳 色      
春 愁 多 在 暮 山 中  趙執信
(半切)
たかどのに登って柳色をながめない方がよい。
春時の憂愁は多くあの夕暮れの山にこめられているのだから。

孤 舟 相 訪 至 天 涯        
萬 轉 雲 山 路 更 賖        
欲 掃 柴 門 迎 遠 客        
青 苔 黄 葉 満 貧 家    劉長卿
(半切扁額)
君は孤舟にて遠路をおいといもなく、更につずら織りの山路を経て、
私をお尋ねくださる。私も柴門を掃って遠来の客をお迎えするのだが、
貧家な我が家には青苔と黄葉が満るのみで、
何のもてなしもできません

梨 花 淡 白 柳 深 青        
柳 絮 飛 時 花 満 城        
惆 悵 東 欄 一 株 雪        
人 生 看 得 幾 清 明    蘇東坡
(半切1/2扁額)
孔密州の太守となった孔宗翰の「東欄梨花」と題する詩に和したもの。
惆悵は悲しみなげく。一株雪は一株の白き梨花。
幾清明は一生のうちに何回清明の好時節をこうして楽しむことが
できるだろうか。

別 院 深 深 夏 簟 清        
石 榴 開 遍 透 簾 明         
樹 陰 満 地 日 當 午        
夢 覺 流 鶯 時 一 聲    蘇舜欽
(半切1/2扁額)
別院は離れ。夏簟はうすべり。
石榴(ざくろ)の花が真っ盛りで、すだれを透して鮮やかだ。
當午は正午。流鶯は枝から枝へと移り鳴く鶯。

壽 至 蓬 莱 不 老 仙  故事
(半切)
長寿は蓬莱にすむ不老の仙人と同じ寿命がある。長寿を祝う言葉。

今 宵 對 雨 娯 殘 歳     
明 日 逢 人 説 去 年  顧璘
(半切)
今宵は雨を聴きつつしみじみと歳晩を送るが、一夜明ければ
それも去年のこととして人に語るであろう。

好 鳥 枝 頭 亦 朋 友     
落 花 水 面 皆 文 章  朱熹
(半切)
枝で鳴く美しい鳥は友であるし、水面の落花は皆美しい文様を作っている。