作例墨場必携

日本篇3(俳句・短歌・散文)


29.9.3UP

古(いにしへ)に恋ふる鳥かも

弓弦葉(ゆづるは)の御井(みい)の上より

鳴きわたり行く 弓削皇子

(半切1/2扁額)

この鳥は、過ぎ去ったころの事を思い

慕うて啼くのであろうか、今、弓弦葉の

御井のほとりを啼きながら飛んで行く。

29.7.28UP

千住といふ所にて船をあがれば

前途三千里の思ひ胸にふさがりて

幻のちまたに離別の泪をそゝぐ

行春や鳥啼魚の目は泪

奥の細道千住の一節
 (半切1/2)
 千住というところで舟をあがると

これから三千里もの道のりがあるのだろうと

胸がいっぱいになる。

この世は幻のようにはかないものだ

未練はないと考えていたが

いざ別れが近づくとさすがに泪があふれる。

春が過ぎ去るのを惜しんで

鳥も魚も涙を浮かべているようだ。

29.7.9UP

玉くしげ 御室の山のさなかづら
さねずは遂に あがかつましじ 万葉集 藤原鎌足
(半切)
(玉櫛笥)みもろの山のさな葛、
あなたと一晩を共にせずにはとてもいられないでしょう。

29.1.29UP

瀧殿のしぶきや料紙すずり箱 正岡子規

(半切)

28.10.2UP

賀正 日曜に遊びにござれ梅の花 芥川龍之介

(半切)

28.10.2UP

日の春をさすがに鶴の歩み哉 寶井其角

(半切)

28.2.28UP

引馬野ににほふ榛原いり乱り

衣にほはせ旅のしるしに 長奥麿

(半切扁額)

引馬野に咲きおうて居る

榛原(萩原)の中に入って逍遥しつつ、

此処まで旅し来った記念に、

萩の花を衣に薫染せしめなさい。

28.2.28UP

婇女の袖吹きかへす明日香風

都を遠みいたづらに吹く 志貴皇子

(半切)

明日香に来てみれば、

既に都も遠く遷り、

都であるなら美しい采女等の

袖をも翻す明日香風も、

今は空しく吹いている。

27.11.29UP

三輪山をしかも隠すか雲だにも

情あらなむ隠さふべしや 額田王

(半切)

三輪山をもっと見たいのだが、

雲が隠していまった。

たとい雲でも雲でも情けがあってくれよ。

29.7.9UP

27.11.29UP

あかねさす紫野行き標野行き

野守は見ずや君が袖振る 額田王

(半切)

お慕わしいあなたが紫草の群生する

蒲生のこの御料地をあちこちお歩きになって

私に御袖を振り遊ばすのを、野の番人から

見られはしないでしょうか。

27.7.26UP

牛島東京向島三囲の神前にて

雨乞するものにかはりて 其角

夕立や田を見めぐりの神ならば

(半切)

27.7.26UP

象潟(きさかた)や雨に西施(せいし)が

合歡(ねむ)の花 芭蕉

(半切)

27.5.23UP

接吻(くちづ)くるわれらがまえへにあをゝゝと

海ながれたり神よいづこに 若山牧水

(半切)

27.5.23UP

熟田津に船乗りせむと月待てば

潮もかなひぬ今は榜ぎ出でな 額田王

(半切扁額)

伊豫の熟田津(にぎたづ)で船を出そうと

を待っているといよいよ明月となり

潮も満ちて好都合となった。

さあ榜(こ)ぎ出そう。

27.3.29UP

春過ぎて夏来るらし白妙(しろたへ)の

衣ほしたり天の香具山 持統天皇

(半切)

春が過ぎてもう夏が来たと見える。

天の香具山の辺りには今日はいっぱい白い衣を干している。

27.3.29UP

うつせみの命を惜しみ波に濡れ

伊良麌(いらご)の島の玉藻苅り食(を)す

(半切)

自分の命を愛惜してこのように海浪に濡れつつ

伊良麌島の玉藻を苅ってたべている。

27.2.21UP

紫草のにほへる妹を憎くあらば

人嬬ゆゑにあれ恋ひめやも 天武天皇

(半切)

紫の色の美しく匂うように美しい妹(いも。おまえ)が、

若しも憎いのなら、もはや他人の妻であるおまえに、

かほどまでに恋するはずはないではないか。

27.2.21UP

河上の五百箇磐群(ゆついはむら)に草むさず

常にもがもな常処女(とこをとめ)にて 吹黄刀自

(半切)

この川の辺の多くの巌には少しも草の生えることがなく、

綺麗でなめらかである。そのようにわが皇女の君も

永遠に美しく容色のお変わりにならないでおいでに

なることをお願いいたします。

有るものを摘み来よ乙女
若菜の日(七草) 虚子
(半切)

我が春も上々吉ぞ梅の花 一茶
(半切)

神風の伊勢の國にもあらましを
何しか来けむ君も有らなくに 大来皇女
(半切)
神風の(枕詞)伊勢国にそのまま
留まっていた方がよかったのに、
君もこの世を去ってもう居られない都に
何しに還って来たことであろう。

ガラス戸の外は月あかし森の上に
白雲長くたなびきて見ゆ 正岡子規
(半切)

雪しろのはるかに来る川上を
見つつおもえり斉藤茂吉 釈迢空
(半切)
折口 信夫(おりくち しのぶ)。
正岡子規の「根岸短歌会」、
後「アララギ」に「釈迢空」の名で参加し、
作歌や選歌をしたが、やがて自己の作風
と乖離し、アララギを退会する。
1924年(大正13年)北原白秋と
同門の古泉千樫らと共に反アララギ派
を結成して『日光』を創刊した。

いまははた老ひかがまりて誰よりも
かれよりも低きしばぶきをする 釈迢空
(半切)

眸(め)にしみる暮れしばかりの冬空の
あゐいろにして月繊くなり 金子薫園
(半切)
歌人。落合直文の浅香社に参加し、
和歌と書を学ぶ。
尾上柴舟と「叙景詩」を発刊した。

日の落ちたる後は、
富士も程なく蒼ざめやがて
西空の金は朱となり、
燻りたる樺色となり、
上りては濃き孛藍色(はいらんしよく)となり、
日の遺孳(わすれがたみ)とも思ふ
明星の次第に暮れ行く
相模灘の上に目を開きて、
明日の出日を約するが如きを見るなり。
徳富蘆花 自然と人生 相模灘の落日
(半切扁額)

古川に恋ひて芽をはる柳かな 芭蕉
(半切)
名もない古川にも柳が垂れ、
よく見れば新芽がのぞく。時は春。

秋山の樹の下かくり逝く水の
吾こそまさめ御思よりは 鏡王女
(半切1/2)
秋山の木の下を隠れて
流れていく細い流れの水が、
次第に水かさを増していくように、
私のあなたに対する思いのたけは、
あなたご自身の私への御思いよりは
まさっているのですよ。

書函序あり天地玄黄と曝したり 虚子句
(半切)
五百句より

濃き日影ひいて遊べる蜥蜴(とかげ)かな 虚子句
(半切扁額)

むかし誰小鍋あらひしすみれ草 芭蕉
(半切)
嵯峨日記より

銀河淡々潟夜光 缺月悠々對高楼
久方の光る銀河に對す時
人の命の塵なるを思ふ
宇と宙はひとつとなりて因果廻り
永きの果てに因に帰るぞと
さらばまた命廻りて何時の日か
君と逢ひ見んこの銀河夜光を
(半切4曲)
自詠の句

渡津海の豊旗雲に入日さし
今夜の月夜清明けくこそ 天智天皇
(半切)
沖に浮かんだ大きな旗のような雲に
赤く夕日が差している。
今宵の月は名月になるだろう。

「蘆の花は見所とてもなく」と
清少納言は書きぬ。
然も其見所なきを
余は却って愛するなり。
自然と人生 徳冨蘆花
(半切)

み雪降る吉野の岳に居る雲の
外に見し子に恋ひ渡るかも 萬葉集
(半切)
美しい雪の降る吉野の嶽を
隠すように漂う雲を見るように
おぼろげに遠くから
その姿を見ていただけの娘なのに
いまは絶え間なく
恋し続けることよ

かくしてやなほや老いなむみ雪降る
大荒木野の小竹にあらなくに 萬葉集
(半切)
こんなふうにますます年老いてゆくのでしょうか。
雪が降る大荒木野(おほあらきの)の
小竹(しの)でもないのに。