用例 墨場必携

日本篇2(俳句・短歌・散文)


霜落ち、木枯らし吹き初めてより
庭の紅葉(もみぢ)門(かど)の
銀杏(いてふ)しきりに飛びて、
晝は書窓を掃ふ影鳥かと疑はれ、
夜は軒を撲(う)ちて晴夜に雨を想ふ。
徳富蘆花 自然と人生
(半切扁額)

わが岡の龗神(おかみ)にいひて降らしめし
雪の摧(くだ)けし其處に散りけむ 藤原夫人
(半切)
その雪はわが大原の神に
頼んでわたしが降らせた雪なのですが、
それのおこぼれがそちらにも降ったのですね。
次に掲載の天武天皇が
藤原夫人に贈った歌に対して、
夫人が答えて詠んだ返歌。

わが里に大雪降れり大原の
古りにし里に 降らまくは後 天武天皇
(半切)
わが里に先に大雪が降ったぞ。
大原の古びた里に降るのはその後だろう。
(さすが私のいる処なり。)

けふは越前の国へと心早卒にして
堂下に下るを若き僧ども
紙硯をかゝえ階のもとまで追来る
折節庭中の柳散れば 
庭掃て出ばや寺に散柳 芭蕉
(半切)

梅が香に障子開けば月夜哉 一茶
(半切扁額)

山越の風を時じみ寝る夜落ちず
家なる妹をかけて偲びつ 万葉集 軍王
(半切)
山越しに吹く風が絶え間ないので、
ひとり寝の毎晩、常に家にいる妻をしのぶ。

吾が欲りし野島は見せつ底深き
阿胡根の浦の珠ぞ拾はぬ 万葉集 中皇命
(半切)
わたしが見たいと思っていた野島は見せてくれましたが、
底の深い阿胡根の浦の真珠はまだ拾っていない。

小竹(ささ)の葉は み山もさやに乱れども 
われは妹(いも)思ふ 別れ来ぬれば 柿本人麻呂
(半切)
ささの葉が風にそよいでざわざわと鳴っていても、
私はあの人のことを思ってやみません、別れて来たあの人のことを。

寒鮒の肉を乏しみ箸をもて
梳(す)きつつ食らふ楽しかりけり 島木赤彦
(半切)
正岡子規の歌集に魅せられ、伊藤左千夫に師事。
1903年(明治36年)「氷牟呂」を創刊。
左千夫の死後、1915年(大正4年)、
齋藤茂吉に代わって短歌雑誌「アララギ」の
編集兼発行人となる。
写生短歌を追求し赤彦独特の歌風を確立。
アララギ派の歌壇での主流的基盤構築に貢献した。

との曇り暮れゆく沖に いさり火の影かと見しは
伊豆焼くるなり 土田耕平
(半切扁額)
「アララギ」選者の一人。島木赤彦を生涯の師とした。

葦切が庭に近鳴五月雨の
こもりの菴に夾竹桃の花 伊藤左千夫
(半切)
『歌よみに与ふる書』に感化され、正岡子規に師事。
子規の没後、根岸短歌会系歌人をまとめ、
短歌雑誌『馬酔木』『アララギ』の中心となって、
斎藤茂吉、土屋文明などを育成した。

一人居や思ふ事なき三ヶ日 夏目漱石
(半切)

門の外の空地に芒群れ生ひて
おのづからにして細き道あり 山口古堂先生
(半切扁額)
恩師山口古堂先生のお宅は
千葉県の八千代台にありました。
品の良い門構えの
静かな佇まいでした。

秋もはや 松茸飯の名残かな 正岡子規
(半切)
残された日記には、死の床に就いても食べたがり、
家族を買いに走らせたという記述がある。

石見のや高角山の木の間より
わが振る袖を妹見つらむか
万葉集 柿本朝臣人麿
(半切)
石見のその高角山の木の間から
私が振る袖を妻は見ているだろうか

さびしさの極みに堪えて天地に
寄する命をつくづくと思う 左千夫
(半切)

子在川上曰、逝者如斯夫、不舎昼夜。
川に對する人間の感情は、
實に此両句に道破し尽されて居る。
詩人の千百言、終に夫子の此口頭語に及ばぬのである。
自然と人生 徳富蘆花
(半切)

余は煙を愛す。田家の煙を愛す。高きに踞きて、
遠村近落の烟の、相呼び相応じつゝ
悠々として天に上り行くを見る毎に心乃ち楽む。
自然と人生 徳富蘆花
(半切)

山鳥の樵夫を化かす雪間哉 各務支考
(半切)
「樵夫」は、きこり。
各務 支考(かがみ しこう)は、
江戸時代前期の俳諧師。蕉門十哲の一人

拝啓 時下益々御清祥の事とお慶び申し上げます
扨て平成二十五年度の一元会事務局におきまして
又会計部長を担当する事と相成りました
つきましては引き続き会計部員として
お力添えを賜わり度くお便り申上げた次第です
また楽しく一緒に対応して行きたいと存じますので
どうかよろしくお願い申上げます
時節がらどうか御自愛下さい
先は右略儀ながら御願耳にて失礼いたします
四月七日 拝具 日沼古菴
天笠宇川様
(巻紙 22×120)

たまきはる宇智うちの大野に馬並なめて
朝踏ますらむその草深野 中皇命 万葉集
(半切)
今頃、宇智の広々とした野原を馬で駆けめぐっていらっしゃるでしょうが、
お怪我がなければいいけれど、お帰りになるまで心配だわ

手作りの鼻曲りたる胡瓜かな 尾崎紅葉
(半切)

玉くしげ 御室の山のさなかづら
さねずは遂に あがかつましじ 万葉集 藤原鎌足
(半切)
(玉櫛笥)みもろの山のさな葛、
さ寝ずにはとても生きていられないでしょう。

蜘蛛消えて只大空の相模灘 原石鼎
(半切)
病床から毎日眺めていた蜘蛛の姿が
ある日忽然と消え、目の前には
紺碧の相模灘が広がっていた。

金屏の松の古ひや冬籠 芭蕉
(半切)
きんびょうの まつのふるひや ふゆごもり
この家の主人は、老松の描かれた金屏風の前に
でんと座って冬を越す。なんと豊かなことよ